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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)199号 判決 2000年1月27日

原告

ダイムラークライスラーアクチェンゲゼルシャフト

代表者

【A】

【B】

訴訟代理人弁護士

加藤義明

鹿野直子

被告

有限会社エイトポイントスター

代表者代表取締役

【C】

訴訟代理人弁護士

武田正彦

同弁理士

【D】

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理のための付加期間を30日と定める。

事実

第1原告が求める裁判

「特許庁が平成9年審判第9100号事件について平成11年2月15日にした審決を取り消す。」との判決

第2原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、別紙審決書の理由(一部)写しの別紙(1)表示の文字からなり、旧第17類「被服 布製身回品 その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第2715642号商標(平成3年4月3日に登録出願、平成8年8月30日に設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

メルセデス-ベンツ アクチェンゲゼルシャフト(以下「ベンツ社」という。)は、平成9年5月30日に本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求し、特許庁は、これを平成9年審判第9100号事件として審理した。

ただし、ベンツ社は平成9年5月26日にダイムラー-ベンツ アクチェンゲゼルシャフト(以下「ダイムラー社」という。)に吸収合併され、さらに、ダイムラー社は平成10年12月21日に原告に吸収合併された。

特許庁は、平成11年2月15日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年3月8日にその謄本をベンツ社宛に送達した。なお、ベンツ社のための出訴期間として90日が付加された。

2  審決の理由

別紙審決書の理由(一部)写しのとおり

3  審決取消事由

(1)  商標法4条1項11号について

審決は、本件商標と引用商標は外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似しない旨判断している。

しかしながら、上記判断は、外観及び称呼については誤りである。

本件商標の下段は上段の読みを表したものにすぎず、また、「’」は単なる記号であるから、本件商標の要部は「BENS」の部分である。一方、引用商標は後記のとおり世界的に著名であり、その略称である「BENZ」の標章も極めて広く知られているから、その要部は「BENZ」の部分である。そうすると、両商標の要部の外観は、末尾の1字が異なるにすぎず、しかも「S」と「Z」は類似しているから、離隔観察するときは両商標の外観は相紛らわしいというべきである。

本件商標からは「ベンズ」の称呼が、引用商標の要部からは「ベンツ」の称呼が生ずることは明らかである。これらの称呼の第1音及び第2音は全く同一であって、第3音が異なるにすぎない。そして、3音の称呼のアクセントは頭音にあって尾音は本来あいまいに発音されるものであるうえ、「ズ(ヅ)」と「ツ」は事実上濁音と清音の関係にあるから、本件商標から生ずる称呼と引用商標の要部から生ずる称呼は、極めて相紛らわしいというべきである。

以上のとおり、本件商標と引用商標は外観及び称呼において類似する。したがって、本件商標は商標法4条1項11号に該当しないとした審決の判断は誤りである。

(2)  商標法4条1項15号について

審決は、仮に引用商標が広く知られているとしても、本件商標と引用商標が類似しない以上、本件商標を付した商品が原告又は原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同されるおそれはない旨判断している。

しかしながら、本件商標が引用商標と外観及び称呼において類似することは前記のとおりである。

また、仮に本件商標が引用商標と類似しないとしても、それだけで、本件商標を付した商品が原告又は原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同されるおそれがないということになるものではない。上記出所の混同のおそれの有無は、具体的に判断されなければならない。

ベンツ社が世界的な自動車メーカーであることは古くから周知のことである。そして、引用商標が世界的に著名であることはもとより、その略称である「BENZ」の標章も、自動車の需要者に止まらず一般大衆にも極めて広く知られている。そして、本件商標は、引用商標と類似していないとしても近似はしている。しかも、本件商標の指定商品は引用商標の指定商品とほとんど同じである。そうである以上、本件商標を付した商品が、原告または原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同されるおそれが高いことは明らかである。

以上のとおりであるから、本件商標は商標法4条1項15号に該当しないとした審決の判断も誤りである。

第3被告の主張

原告の主張1,2は認めるが、3(審決取消事由)は争う。

審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  商標法4条1項11号について

原告は、本件商標と引用商標は外観及び称呼において類似する旨主張する。

しかしながら、わずか3文字からなる商標においては、たとえ2文字が同一であっても、1文字が異なる以上は、各商標の外観は類似せず、また、各商標から生ずる称呼も異なると解すべきであるから、原告の主張は失当である。

2  商標法4条1項15号について

原告は、仮に本件商標が引用商標と類似しないとしても、引用商標の略称である「BENZ」の標章は一般大衆にも極めて広く知られているから、本件商標を付した商品が原告または原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同されるおそれが高い旨主張する。

しかしながら、本件商標と引用商標がいかなる意味においても類似するとはいえない以上、本件商標を付した商品が原告または原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同されるおそれはないとした審決の判断は正当である。

理由

第1原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決  の理由)は、被告も認めるところである。

第2商標法4条1項11号について

原告は、本件商標と引用商標を離隔観察すると両商標の外観は相紛らわしい旨主張する。

しかしながら、本件商標は横書きした4つの欧文字(ただし、その間に「’」がある。)を上段に、横書きした3つの片仮名を下段に表したものであるのに対して、引用商標は12の欧文字(ただし、その間に「-」がある。)を横書きしたものであるから、それぞれの外観はいかなる意味においても類似しないことは明らかである。

この点について、原告は、本件商標の要部は「BENS」の部分であり、引用商標の要部は「BENZ」の部分であるから、両商標の外観は類似する旨主張する。

確かに、後記のように「BENZ」あるいは「ベンツ」の標章が極めて広く知られていることに鑑みると、引用商標の要部が「BENZ」の部分であると解する余地は十分にあるといえよう。しかし、同時に、「BENZ」あるいは「ベンツ」が極めて広く知られている標章であるだけに、本件商標を見た需要者が、これを「BENZ」あるいは「ベンツ」と取り違えることはほとんどあり得ないと考えられる。したがって、原告の上記主張は失当である。

また、原告は、本件商標と引用商標の要部から生ずる各称呼は極めて相紛らわしい旨主張する。

本件商標から「ベンズ」の称呼が生ずることは当然であり、また、「BENZ」あるいは「ベンツ」の標章が広く知られていることに鑑みると、引用商標から「ベンツ」の称呼が生ずると解することもあながち不合理ではないであろう。しかしながら、わずか3音の称呼にあっては、たとい2音が同一であっても、1音が異なる以上は、異なる1音が特殊な関係にあるような場合(「イ」と「ヰ」,「エ」と「ヱ」,「オ」と「ヲ」などが典型的なものである。)など特別な事情がある場合を除いて、称呼は類似しないと解するのが相当である。そして、本件商標の「ベンズ」と引用商標の「ベンツ」との間に、このような特別な事情があることは、本件全証拠によっても認めることはできない。したがって、本件商標と引用商標は、生ずる称呼においても、類似するとはいえない。

以上のとおりであるから、本件商標は商標法4条1項11号に該当しないとした審決の判断に誤りはない。

第3商標法4条1項15号の規定について原告は、引用商標は世界的に著名であって、その略称である「BENZ」の標章も一般大衆に極めて広く知られているから、本件商標を付した商品が原告または原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同されるおそれがある旨主張する。

確かに、ベンツ社が世界的な自動車メーカーであって、引用商標あるいはその略称である「BENZ」あるいは「ベンツ」の標章が、高級な外国製自動車に係る標章として一般大衆にも極めて広く知られていることは当裁判所に顕著な事実であ  る。

しかしながら、「BENZ」あるいは「ベンツ」の標章が、自動車と何ら関係のない商品に係る標章としても広く知られていることを認めるに足りる証拠はない。また、原告又は原告と何らかの関係を有する者とのつながりを感じさせる要因が、引用商標あるいは「BENZ」ないし「ベンツ」との類似性以外に本件商標にあることは、本件全証拠によっても認めることができない。そして、上記類似性を認めることができないことは、前述のとおりである。そうすると、たとい本件商標をその指定商品(いずれも、自動車とは何の関係もない商品である。)に付しても、それが原告または原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同されるおそれはないと考えざるを得ない。

以上のとおりであるから、本件商標は商標法4条1項15号に該当しないとした審決の判断にも誤りはない。

第4よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告及び上告受理の申立てのための期間付加について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

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